【書評】『ひとりでしにたい』カレー沢薫
書評第一回目はこちら!
『ひとりでしにたい』です!
いや~いいタイトルですね!!
粗筋としては
30代独身女性が、伯母の孤独死をきっかけに婚活をするが上手く行かず、年下のエリート男性にキツい事を言われたのをキッカケに「一人で生きて一人で死にたい!!」と決意を固め、暗中模索を始める。
というものです。
なんというか粗筋の段階で「わかるー!!」と熱く頷く方も多いんじゃないでしょうか。中身も期待を裏切らないものですので、題名だけでピンと来たら読んで損はないです。
カレー沢薫先生の漫画といえば、可愛くデフォルメされた猫ちゃんがメインキャラの漫画が有名ですが、こちらはちゃんとした人間がメインキャラです。(清掃員などのモブが猫だったりしますが)猫キャラでこの内容を書いた方が売れたと思うんですが、おそらく他人事ではない身近な問題だと読者に感じてほしくて、作画コストの掛かる人間キャラで描いているんじゃないかと思います。そう…これはそういう真面目な漫画なんです。
大手企業でバリバリのキャリアウーマンとして働いていて、いつも綺麗でカッコよくて…若い頃は主人公・鳴海の憧れだった伯母さん。そんな彼女も70過ぎたら愚痴っぽく萎れたただの『おばあさん』になり、風呂場でスープになるという最期を遂げる。怪しげな投資話や宗教、買い物依存症…そんな匂いのする大量のゴミだけを、終の住処となったマンションいっぱいに残して…。
金も時間も思うがままの優雅な老後を送れたはずの伯母さんが、どうして孤独で満たされない生活をしなければならなかったのか?
『老後のための婚活』は正しいのか?
風呂場でスープにならないためには、どうすればいいのか?
どこに助けを求めればいいのか?
書いてるだけでもグッタリしちゃいますが、ご安心を。
そんな身に詰まされる問題を提起しつつ、きちんと『解答』を用意してくれるのが
この漫画だったりします。コメディも織り交ぜつつも、『死』という思いテーマをきちんと尊重して扱い、いたずらに不安を煽るだけではなく「じゃあ、こうしましょう」「こうすればいいですよ」と現実のその先を指し示してくれる誠実な漫画なのです。
主人公である山口鳴海(35歳学芸員)も、中の上くらいの家庭で何不自由なくのんびり育った苦労知らずゆえに、無神経な発言や思慮が浅いところもあるけれど、根は明るく素直で擦れていない好感の持てるキャラクター。
そして彼女にやたらと厳しく突っかかるエリート公務員・奈須田(20代)は、その実鳴海に惚れているんですよ~フヒヒ!それもアイドル好きの鳴海と話がしたい一心で、野暮ったい髪型をアイドル風にチェンジしたり、自分もアイドルオタクを装って鳴海との距離を縮めようと謀ったりと、アプローチの仕方が健気でニヤニヤしてしまうんですよ。ええどええど~!!ヒヒッ!!
と、決して辛気臭くシビアなだけの漫画ではありませんので、安心してお勧めできます。気になってる方は是非ご一読を。二巻が楽しみです。
『買い物依存 投資 宗教……
伯母さん、そんなに頭悪かった?
いや……若い頃「自由」だと思っていたものは
年を取ると「孤独」と「不安」になって
孤独と不安は、人間を「馬鹿」にしてしまうんだ』
(『ひとりでしにたい』P48 より)